未来人材ビジョンと今後の人事戦略

 経済産業省が、今後の人材政策などを検討するために設置した「未来人材会議」は5月31日、未来を支える人材の育成・確保に向けた方向性を示す「未来人材ビジョン」を取りまとめ、公表しました。同ビジョンでは、将来の労働需要の変化を推計した上で、社会システム全体を見直す大きな方向性を「旧来の日本型雇用システムからの転換」「好きなことに夢中になれる教育への転換」の二つに整理し、実現に向け今後取り組むべき具体策を示しました。また、持続的な企業価値の向上に向けて、経営戦略と連動した人材戦略をどう実践するかという点について、2020年9月に公表した「人材版伊藤レポート」が示した内容を深掘りするため、「人的資本経営の実現に向けた検討会」を設置し、議論を重ねてきました。この度、「未来人材ビジョン」の公表と一緒に、検討会の報告書に「実践事例集」を追加する形でまとめた「人材版伊藤レポート2.0」とともに、併せて、「人的資本経営に関する調査 集計結果」を公表しています。「人的資本」の重要性を認識するとともに、人的資本経営という変革を、どう具体化し、実践に移していくかは、事業内容や置かれた環境によって、有効な打ち手は異なり経営陣が人的資本経営へと向かう変革を主導していただけることを期待すると結んでいます。
 

 旧来の日本型雇用システムからの転換は、厚生労働省における「働き方改革」同じ方向を目指すもので、自ずと働く人に求められる能力も大きく変わっていくことになります。また、組織と働き手の関係も、現在の同質性を求めるモノカルチャー、閉鎖的な関係から、知・経験の多様性を重視される関係となり、働き手から選ばれる組織へと変わらなければ、働き手の確保もままならない状況になります。「人材未来ビジョン」では、日本企業が感じる人材マネジメントの一番の課題として、「人材戦略と経営戦略と紐づいていないこと」を挙げています。その他いくつかの課題をみても「日本型雇用システム」がもたらす弊害と思われます。人材版伊藤リポートでは、「経営戦略と人事戦略の連動」「As Is-To beギャップの定量把握」「企業文化の定着」の3つの「視点」を挙げています。加えて、これらを可能とする5つの「共通要素」が整理されています。その一つである「動的な人材ポートフォリオ」は前述の「多様性が重視される組織」に相通じます。その他、「知・経験のD&I」「リスキ・学び直し」「従業員インゲージメント」「時間や

場所のとらわれない働き方」が挙げられています。人的資本経営の実践は、働き方改革の3ステップに合わせて施策を講じれば、3年程度で方向性が決まり2030年以降、人的資本経営の実現ができると思われます。