
昨年12月、日銀短観において、景況感が回復している中、コロナ禍の後遺症の側面ではなく将来の経済低迷を示唆する労働力の不足という課題が示されました。短観発表時、労働需要の逼迫感はやわらぎましたが、リーマンショックとの比較がされますが、有効求人倍率0.5倍程度で推移した時代とくらべものにならないほど労働力不足の深刻な状況が続くそうです。帝国データバンクが発表した「人出不足に対する企業の動向調査-2021年7月)では、過剰感が続く業種もありながら、多くの業種で人出不足感が高まっているようです。正社員の人出不足割合は、昨年5月の29.1%を底に再び上昇傾向がみられ、今回の調査では40.7%となっています。
正社員の人出不足割合は前年同月比10.3ポイントと大幅に増加し、非正社員も5.9%と増加しています。業種別には「建設」では57.5%と最も高い割合になり、「自動車・同部品小売り」や「運送用機械・器具製造」など自動車関連の業種が上位にあがりました。非正社員が不足する企業は22.5%となり、業種別では、「飲食店」や「各種小売」といった個人消費関連の業種が上位にあがりました。新型コロナウイルスにより経済活動に大幅な制限を受けている「旅館・ホテル」などの業種では、人出の過剰感が依然として高水準にあります。企業の好況感は業種によってK字回復の様相が強まりつつあり、その雇用情勢も業種によって温度差が見られます。

今年5月日本総研は、「コロナ後の景気回復、人出不足が制約」と題するリポートを発表しました。自粛期間が長かった分、サービス消費のペントアップ(繰り越し)需要が大きくなる可能性について言及していましたが、緊急事態宣言下にも関わらずオリンピック開催中の消費者の動きが証明していた気がします。しかし、サービス業の人出不足による影響は生産性の抑制を招き、短期的に取りうる手段としては労働力の増強か生産の抑制の2つです。長時間残業また賃金引上げによる労働者の確保による労働力増強が難しいとなれば、生産の抑制を選択するであろうと指摘しています。
労働力の不足は、働き方改革の方向性にも示されているように少子高齢の人口構造の変化に待ったなしの日本の課題です。少子化対策に手を付けてこなかった結果でもあります。近年、成長戦略に切り札としてデジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されていますが、人出不足の対応としてデジタル化の推進も考えられます。国内企業の7割がデジタル化の必要性を感じているとの調査結果がありますが、目的は「コスト削減」や「業務プロセスや業務システムの改善」が多かったようです。同時にデジタル化を推進できる人材がいないなどの課題も多く、従業員の職業能力の再開発・再教育など重点的に取り組む必要があります。デジタル人材の採用を要望する企業が多いのですが、今いる従業員を育てたほうが結果は良い方向に向かいます。