
厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会は、令和3年度の最低賃金について時給を全国一律28円引き上げるよう求める答申を示しました。新型コロナウイルス禍を踏まえ提示を見送った前年から一転し、全国平均として過去最大の引き上げ額となります。コロナ禍でダメージを受ける労働者の生活を安定させるために、最低賃金の着実な引き上げは重要ですが、雇用する側も中小企業を中心に、前年からのコロナ禍で経営難に直面していることに配慮する必要があります。
政府や労働界はすでに引き上げを主張していますが、商工会議所などの中小企業加盟団体が新型コロナウイルス禍では雇用の維持を優先し最低賃金は据え置くべきだと反論して対立が先鋭化しています。この動きに労働組合の中央組織である連合は「仮に時給1000円で年間200時間働いても、年収は200万円にしかならない。日本の最賃は先進国の中で置いてきぼりなってる」として、政府と足並みをそろえ引き上げを求めています。確かに、日本では地域別最低賃金の全国加重平均は、フルタイム労働者の平均賃金(中央値)の約40%にすぎず、OECD加盟国内では最低レベルです。フランスは60%、イギリス、ドイツ、韓国が50%で、かつ全国一律の金額になっています。早期の最低賃金1,000円の実現が求められる背景にはこのような事情があります。

最低賃金引き上げをシステム的に取り組んでいる国も多く、フランスは物価や平均賃金が上がると自動的に最低賃金があがります。また、イギリスでは2020年までにフルタイム労働者の平均賃金(中央値)の60%という明確な目標を掲げ段階的に引き上げています。イギリスでは最低賃金のほか、労働者が最低限の生活を維持するために必要な生計費から算定した生活者ベースの生活賃金があります。この全国一律の生活賃金は今年度1,359円となり、最低賃金はこれを上回る賃金ベースになります。
こうした政策の背景には最低賃金の引き上げはみんなにメリットがあるとうい社会的コンセンサスです。格差是正や、消費拡大、また、税金を支払う社会の支え手を増やして、就労による自立が可能となることで社会保障費が減るという、広く社会の構成員へのメリットが共有されています。イギリスでは、2015年に最低賃金を大幅に引き上げましたが、失業率のマイナス効果は見られず、利益で調整した企業が36%、生産性向上で吸収した企業が24%、雇用削減の12%を大きく上回っています。今後、この課題への企業対応を迫られることになりますが、今から収益の確保や生産性向上に向けた取り組みが必要な時代に突入します。