
少子高齢化の進展による人手不足、AIなどの技術革新、新型コロナウイルスによる新しい働き方など、働く人を巡る労働環境は大きな変化に直面しています。そうした環境下で、企業の従業員に対する能力開発や労働者自身のキャリア形成は、働き方改革の方向性であるジョブ型人事制度への移行においては必須の課題になっています。ジョブ型人事制度では、職務等級人事制度を基盤として、能力開発と評価制度、給与制度が連動する仕組みになりますので、企業の求める能力についての学習機会は一定の期間は企業責任で行う必要があります。長期雇用システムの変化や多様な雇用形態の進捗等、国が目指す働き方改革と人材開発、JILPTがこの度発表した、日本の今後の人材開発の課題についての調査・研究について紹介したいと思います。
今年から5年間を適用期間とする「第11次職業能力開発計画」では、産業構造・社会環境の変化を踏まえた上で、実践的な職業能力の開発の向けたOJTやOFF-JTの機会の重要性を指摘し、人材育成において企業の役割が
引き続き大きいことが強調されています。日本の職業能力開発の特徴は、従前のメンバーシップ型人事制度の考え方から企業主導で行われる傾向が強いです。個々人の能力開発より従業員全体の底上げ教育に力を入れていることやOJTがOFF-JT・職場外の学習より重視されることなども特徴になります。これからのジョブ型人事制では、職業に関する能力を自発的に開発し向上させるための活動(自己啓発)が主力となってきます。しかし、「能力開発基本調査」(厚労省)によれば労働者の29.8%(2018年度)、自己負担費用\27,700(2018年)で、個人主導の能力開発への移行はまだまだ時間がかかりそうです。

職場における能力開発の現状について、2020年にJILPTが行った調査でも企業主体で労働者個人が主体が少数であることも国の調査と同様な結果が出たようです。調査で興味深いのが、OJT取り組みで会社理念の理解や会社の人材育成の方針や身につける知識や能力を示していることなど施策は、300人以上企業ほど実施割合が高いようです。OJTの取り組みがうまくいっていると評価する企業の多くは、方針があり、かつ従業員に浸透している企業が多いという結果で、仕事を振り返る機会の創出、目指すべき仕事・役割などの示していることが分かりました。
人事制度の構築のプロセスで、職務分析・評価による要件定義などを整理していくことで、目指す仕事・役割や到達点を示すことができます。経営理念を企業風土として浸透し、求める仕事の各人の基準をしめすことで、仕事の質の向上(生産性)、モチベーションの向上に寄与できます。
そのうえで、更に必要な能力として、前例のない出来事に対処できる能力(適応課題に対応できる)であり、新たな仕事を作り出す能力・コミュニケーション能力や対人交渉力などがあります。これらは、OJTの取り組みとは別個にOFF-JTや職場外の講師による年間計画に基づいた教育の仕組み作りが必要と感じています。私自身、働き方改革の目指す働き方や人事制度を構築する仕事を終え、安心した直後、翌年度の人材開発の業務委託につながる事例が増えています。多くの会社で人材開発は喫緊の課題のようです。