消える生活給・同一労働同一賃金の行方

 同じ企業内で正社員とパートタイマーなどの非正規社員間の不合理な待遇差をなくし、多様で柔軟な働き方が選択できる法律が、今年4月からすべての企業に適用されるようになりました。多くの企業で、正社員の報奨として扶養手当や住宅手当などの生活に係る諸手当を支給していますが、非正社員に支給がない場合は違法判断となりかねない状態が続いていることになります。弊事務所への多くの相談では、「正社員の手当をなくすことができるか?」の質問が多いのですが、労働条件の不利益変更にあたり簡単にできるものではありません。

 

 扶養手当や住宅手当などの労働者間の待遇差について争われた、注目の日本郵便3事件について、最高裁は契約社員の労働条件について「不合理」の判断が昨年10月に示されました。生活給に係る手当等の最高裁判決が確定した以上、企業の対応が迫られることになります。2つの手当について日本郵便大阪事件では、「扶養親族者の生活保障をすることで継続的な雇用を確保する」というのが企業側の主張でした。有期契約の非正規社員であっても更新を繰り返し、比較的長く働いている場合、たとえ正社員と職務内容が違っても扶養手当を支給しないのは不合理であり、非正社員にも扶養手当を支給すべきと言ってます。

 

 住宅手当について、2018年の最高裁判決(ハマキョウレックス事件)で、転居を伴う転勤の有無により、非正社員に支給しないことを不合理ではないと判断されました。しかし、今回の最高裁判決では、転居を伴う転勤が想定されない正社員には住宅手当が支給されているのに、非正社員に支給されなのは不合理との判断がされました。

扶養手当と同様に生活費の補助が目的であれば、正社員、非正社員も同様との考え方で、年末年始勤務手当などの諸手当や休暇の付与も同じ理論で不合理とされました。

 

 日本郵政グループでは、住宅手当の廃止を検討しましたがJP労組との話し合いで、10年で段階的に引き下げる経過措置後の廃止することで、決着したようです。改革の本来の目的は、欧米に比べて賃金差が大きい日本の非正社員の処遇を引上げ、格差を解消して経済の好循環を実現することにあります。その目的からも社員の生活給を廃止して不利益を押し付けるのは間違いです。人に職務を当てはめる日本的人事制度と違い、職務に人を任用する欧米型のジョブ型には家族手当などの属人給を支給する発想がありません。実務的には、人事制度全体の再構築のなかで、等級人事制度とジョブ型給与制度を連動させることで、属人的要素の強い手当などを経過的な廃止が可能になります。小手先の解決では、働く人たちの納得を得ることは難しいです。