高年齢労働者の安全と健康、企業責任について

 昨年5回にわたり開催された人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議の報告書がこの度公表されました。企業に70歳までの就業機会確保の努力義務を課す高年齢者雇用安定法の改正法案が今国会での提出もあり、高齢者の雇用と就業環境に関し、企業の経営課題として検討する年になりそうです。有識者会議報告書では、60歳以上の雇用者数の増加や労働災害増加の現状等が分析されています。今後に向けた課題と対応を考えるといずれ何らか法制化されることが予想されますが、それ以前に高年齢者の安全と健康が企業にとっての大きな課題となっていることも事実です。

 

 60歳以上の雇用者数は過去10年間で1.5倍の増加、特に商業や保健衛生業をはじめとする第三次産業で増加しているようです。休業4日以上の労働災害の死傷者数は60歳以上の労働者では26%と増加傾向にあり、発生率は若年者に比べ相対的に高く、特に転倒災害、墜落、転落災害の発生率が高いようです。高齢者の身体機能は近年向上しているとはいえ、壮年者と比べると視力、筋力等の低下は見られ転倒等の労働災害発生に影響していると考えられます。メタボリックシンドローム該当者、定期健康診断の有所見率の増加など、青壮年期からの継続的な健康づくりや生活習慣病の予防が重要としています。労働者を使用する事業者の支配下にある労働者に対して労働災害等を発生させない事前の予防措置を講じるいわゆる安全衛生配慮義務が企業にはあります。

 

 予防責任である安全衛生配慮義務とは、安全衛生配慮義務に民事責任と労働安全衛生法上の予防義務の刑事責任から構成されます。労働者保護の観点から講ずべき予防措置とは、災害防止責任であり、結果責任ではなく災害防止の手段を尽くすという予防責任をいいます。労働安全衛生法は事業者が守るべき最低限の事項であり、災害発生の危険を予測し危険回避の予防対策を取らない限り安全配慮義務の履行は困難といわれています。労働災害が発生した場合でも、社会通念上相当とされる防止手段を尽くしていれば安全衛生配慮義務違反に基づく損害賠償責任は免れます。高年齢労働者の安全と健康、予防措置等は企業にとっての喫緊の課題となりつつあります。

 

 経験のない異なる業種、業務に転換して就労し、業務に不慣れな高齢者が増えています。強い筋力を要する作業等の減らすなど作業負荷の軽減や作業ペースや作業量のコントロールなど個々人にあった作業管理を見直すなど労働災害の予防措置を講じる必要があります。社会福祉施設に多い腰痛、多くに業種で発生している熱中症、長時間労働等による脳・心臓疾患等の業務上疾病についても一層の対策が必要です。健康診断の確実な実施と保健指導など事後の措置、フレイルやロコモティブシンドロームといった高齢期に現れてくる特徴も考慮が必要になります。病気の治療と仕事の両立支援など視点を取り入れるなど加齢に伴う身体変化でも継続して働ける職場環境の改善の取り組みが重要です。人生100年時代に向け、今後、高年齢労働者の増加と事業者の安全衛生配慮義務に伴う予防措置は、想定すべき経営課題となりそうです。