
来年4月の(中小企業は2021年) パートタイム・有期雇用労働法の施行に向けて、正規・非正規の不合理な待遇差についての検証や賃金制度の見直しなど人事制度ニーズが増えています。パートタイム等従業員はそんなに多くないので、制度の大幅な見直しではなくコンプラ的な問題がないように対応したいといったニーズ、またはパートタイム等の従業員が多いので、同一労働同一賃金に向けた積極活用、正社員共通の資格制度など人事制度による差別化を通じて人材の安定確保を進めたいとのニーズに分かれるようです。賃金規定を見直すのには労使の話し合いなど、相応の時間がかかりますので対応は計画的に進めましょう。法律では正規・非正規労働者間の不合理な待遇差を設けることが禁止されてますが、どのような待遇差が不合理に当たるのかが難しい判断ではないでしょうか。
同一労働同一賃金については、法改正に先立ち昨年6月1日に最高裁において2つの重要裁判の判決が言い渡されています。ハマキョウレックス事件では、正規社員と非正規社員の間の手当不支給などの差別が争われましたが、転勤有無による住宅手当の妥当性は認め、それ以外の5つの手当を不合理としました。手当・賞与等の趣旨・目的に基づき不合理性を検証する個別判断方式が求められたことが特筆すべき法判断です。長澤運輸事件では、定年後再雇用者の賃金減額に関する差別的扱い争われた裁判ですが、定年後の雇用であることなどを理由として一定の年収減を容認しました。この会社は再雇用者の収入減を他の手当で補填したり、長い年数をかけて労働条件の不利益変更に労使の話し合いを続けてきました。定年後であれば自由に年収を下げられる訳ではないのでご注意ください。

ハマキョウレックス事件では、ドライバーの「無事故手当」について、安全運転及び事故防止の必要性は、正規社員と非正規社員で変わるものではないので支給・不支給の差は不合理としました。また、「作業手当」についても、実施作業に対する金銭評価は変わらないとして不合理とされています。同様に「給食手当」「皆勤手当」「通勤手当」を不合理としました。今年、最高裁まで争いそうな注目すべき正規・非正規の差異を不合理とする高裁判決があります。「賞与支給額」を争う大阪薬価大学事件判決、「長期勤続者に対する差異」を争う日本郵便大阪事判決などがありますが、法9条(均等待遇)では差別的取り扱いの禁止、法8条(均衡待遇)では不合理な相違の禁止などから最高裁の判決が注目されます。
ハマキョウレックス事件での不合理性の判断では、手当の目的が指摘されています。賃金制度を見直すときに、まず検討が求められるのが諸手当についてですが、中核人材の育成と長期雇用の観点から不用意に正規社員の待遇を引き下げるのは望ましい対応ではありません。諸手当の不合理性の判断においては、「手当の目的」「職務内容に基づく手当の必要性の差異」「転勤の可能性、中核人材育成という人材育成の仕組みの差異」「その他の事情」から検証されていますので、ご自分の会社での手当見直しに当たってはこの視点で進めることになります。ガイドラインでは、原則となる考え方と問題となる具体例、問題とならない具体例が示されていますが、あくまでも例示であって個別の企業判断により検証、労働者の求めにより待遇相違についての説明をしなければなりません。時間がかかりますので、今すぐにでも始めないと間に合わないかもしれません。