賃金・年次有給等請求権の消滅事項の検討

 労働関係における賃金等請求権の消滅時効については、民法の特則として労働基準法第115条の規定が運用され、使用人の給与等に関する短期消滅時効1年を2年とする規定に基づき労務管理や裁判実務等が行われてきました。来年4月施行される改正民法において短期消滅時効が廃止されるとともに、主観的起算点から5年間、客観的起算点から10年間、権利を行使しないときに時効により消滅する、と整理されました。これを受けて民法の特別法として労働者の利益保護のために設けらた労基法115条の改正が注目されていました。

 厚生労働省は1日に開催された「第153回労働政策審議会労働条件分科会」資料をHPで公表しました。議題は、「賃金等請求権の消滅時効について」など。「賃金等請求権の消滅時効のあり方に関する検討会」の「論点整理」等が資料として示されました。

 

 各論点についての検討についての前提として、労基法の賃金等請求権の消滅時効規定は、民法の特別法として位置づけられているが、両法律を別個のものとして異なることの合理性を議論していくという意見があったようです。その場合、仮に特別の事情を鑑みて労基法の賃金等請求権の消滅時効期間を民法より短くすることに合理性があるのであれば、短くすることもありえるという考え方もあるとしてています。それに反して、民法より短い消滅時効期間を、労働者保護を旨とする労基法に設定することは問題だとする意見もあったようです。賃金請求権の消滅時効については、仮に延長されたときの労務管理等に企業実務の変更や指揮命令、労働時間管理等に関しての企業行動の変化などの考慮が必要とされるしながらも、方向性としては、延長については容認となりそうです。

 

 賃金請求権以外の請求権については、現行では賃金請求権と同様に2年(退職金を除く)と設定されていますので、基本的には賃金請求権の消滅時効の結論に合わせて措置を講じることが適当と思われます。しかしながら、年次有給休暇に関しては、そもそも権利取得した年度内に取得することが想定した仕組みなので、未取得分を翌年に繰り越すことが例外的なものなのだそうです。4月から施行された年次有給休暇取得義務化の現状の混乱など、消滅時効を長くした場合に政策と逆行するおそれもあることから、賃金請求権と同様の扱いを行う必要がないとでの意見の一致が見られているようです。同様に、災害補償請求権についても、他の労働保険・社会保険の給付との関係、併給調整の課題から留意が必要とされています。

 

 検討会の結論は、民法の施行期日(2020年4月1日)を念頭に置きつつ年内に出される予定です。仮に労働基準法115条を改正する場合、当該改正法の施行期日以後のどのような債権から適用するかにあっては、①民法改正の経過措置と同様に、労働契約日の締結日を基準に考える。②賃金等の債権の発生日を基準に考える。などの方法があります。これらの改正が、企業の労務管理に大きな影響を及ぼす改正になることは間違いないようです。労基法109条に規定する労働者名簿や賃金台帳等に記録保存について、現在の3年から6年またはそれ以上になるかですが、罰則がある規定ですのであまり企業負担ならないようにして欲しいものです。検討会の答申を踏まえて、労働政策審議会にて議論されます。