
4月からの建設キャリアアップシステムの運用に向けて、ゼネコンなど元受事業各社からの協力下請け事業者にシステム登録の要請が増えてきたようです。業界の最大の課題は若年層の入職を進めることです。現場での経験や資格などを見える化して公正な評価ができることで適正な賃金と将来のキャリパスを描くことができます。インターネットやコンピューターのシステムを利用して建設技能者や事業所の処遇を改善していこうというのが、この建設キャリアアップシステムです。
技能者の処遇改善はもちろんですが、事業者にとっては現場に入場する技能者ひとり一人の社会保険加入状況等の確認報告などが不要になります。施工体制台帳や作業員名簿の作成の効率化が図れるのこと、建退共関係事務が軽減されます。企業にとってのメリットは、ITのシステム活用による労働時間削減につながる働き方改革ともいえます。人事コンサルタント・社会保険労務士としての着眼点としては、システムに連動した技能・職歴等に応じたきめ細かな賃金体系の確立の重要性です。また、元請事業者のメリットを考えた時、安全管理体制の充実と労災保険の保険料決定で労務比率を乗じる特例ではなく、実際に支払われた賃金で算定することではないかと思われます。

建設業の労災保険料は一般の事業とは違い、建設現場を適用事業として元請事業者が請負金額に労務比を掛けた額に保険料率をかけて算出します。元請事業者が下請け事業者の分も保険料を支払うことで、現場で働くすべての雇用者に、労災保険を適用することが法律で決まっています。一般の会社では、その会社が雇用者に支払った賃金の総額で保険料を支払っていますが、建設現場では重層的な下請け関係にありすべての雇用者の賃金を把握が困難なので特別な仕組みになっています。企業の役員やひとり親方は、雇用者とされませんので特別加入で労災保険の適用を受けることになります。
大手のゼネコンでは、一部の単独有期事業で、すべての雇用者に実際に支払った賃金総額を算定して労災保険料を決定しています。しかし、この方式は、実際の従事した時間を正確に把握すること、下請事業者別に対象となる従事者の賃金台帳・賃金支払計算書等が整備されていることなど、ハードルが高いものです。今回のシステムによってカードリーダーを通すことで、現場の出入管理が可能になり、他のシステムと併用することで従事する時間を正確に把握することも可能になります。実際の支払われた賃金で算定する方法は、労務費で算定するより保険料の軽減ができますので、今後増えるのではないかと思います。その場合、下請事業者毎に適正な賃金管理が行われることが条件ですが、自社の従事者のシステムへの技能者登録は必須になります。