人口構造の変化とイノベーション

 日本に人口急減・超高齢化が経済社会に及ぼす影響として、労働力人口減少による経済規模の縮小や社会保障制度・財政に持続可能性への不安が言われています。くわえて若者の既婚率の低下、少子化が、ピラミッド型の人口構造からが逆三角形(棺桶型)となり、人類史上初めてとなる人口構造へ、日本が世界に先駆けて突入しようとしています。ドラッカーは、イノベーションの機会を捉えるとき、人口の増減、年齢構成、雇用、教育水準、所得など人口構造の変化ほど明白なものはなく、見誤りようがないと言っています。しかも、リードタイムまで明らかです。

 

 20年後の労働力は、すでに生まれている子供たちであり、今日、生まれた赤ちゃんです。40年後に退職年齢に達する人たちは、現在すべて働いています。人口構造の変化が社会に影響をもたらす頃まで、どのようなことが変わり、何が必要となるのかが、予測可能なリードタイムです。このような人口構造の変化が企業家にとって実りあるイノベーションの機会となるのは、ひとえに既存の企業や公的機関の多くが、それを無視してくれているからであると、ドラッカーは言い切っています。(イノベーションと企業家精神)人口構造の変化を示す明らかな証拠「有効求人倍率」の変化を、経済政策(アベノミクス)の成果とする政府の見解が、正に当てはまるようです。

 

 人口構造の変化の分析は人口に関わる数字から始まりますが、人口総数そのものにあまり意味がなく年齢構成の変化すなわち人口の重心の移動が重要としています。人口の重心の移動に伴い「時代の空気」が変化します。人口の急減、超高齢化社会がもたらす影響・・休日や余暇の過ごし方の変化、移動手段としての交通機関の変化、働くことの変化は、既存の価値観を一変させ、新たな価値創造の領域に日本は足を踏み入れることは間違いありません。

 

 日本型の経営システムの限界が見えてきたからこそ、長時間の労働に労働者を縛り続けることなく、しっかり収益を出す企業努力が求められるのが「働き方改革」の本旨です。資本や労働力に代わって知識が最も重要な生産手段とする社会の到来が、ドラッカーが資本主義社会の次にくる時代と予測した「知識社会」です。培った専門的な知識・技能を創意、知識、情報によって、より生産的な仕事に変える働き方をしていく社会のことです。一方で定型的な仕事に従事するサービス労働者の存在も忘れてはなりません。人口構造変化、超高齢社会で企業のどのようなイノベーションの機会へ導くのか・・企業にとって大いなるチャンスの時代が到来しようとしています。