主体的なキャリア形成と雇用システムについて

 連合総研は1日、月刊レポート『DIO』6月号をホームページで公開しました。特集テーマは「ポスト正規・非正規の労働課題~『個別化』に対応し働くものの自己決定を支援する改革へ」。元労働政策審議会の会長、諏訪康雄氏ら3人の専門家が寄稿しています。諏訪先生といえば、2002年、キャリア形成の現状と支援政策のあり方について報告書において、産業構造や職業構造が大きく転換し、もはや生涯一社就労は現実的ではないと指摘されました。こうした環境変化に対応するには、個人の財産である職業経験による能力の蓄積と、その能力蓄積の展開である職業キャリアを保障することが必要であるとして、「キャリア権」の法理を提示しました。

 

 法律の条文として、雇用対策法3条(基本理念)は、適切な職業生活も設計、職業能力に開発向上、円滑な再就職などにより「職業生活の全期間を通じて、その職業の安定が図られるように配慮されるもの」(2001年改正法)と「キャリア権」を法令上位置づけました。キャリアが法律用語として「職業生活」と訳され、この語は10年後31労働法令の62か条に数えられるようになりました。その後、「女性活躍推進法」(2015年)など2017年3月現在では49法令に用例が見られるようになりましたが、雇用の現場では、立法や法解釈だけでは不十分で、労働者個人が自分なりに適正判断と意欲に応じて能力開発に努力を積んでも、それが組織から評価され活用されるとは限らないのが現実です。

 

 

 

 中央大学大学院戦略経営研究科教授、佐藤博樹先生の寄稿を紹介します。近年、欧米の雇用システムの特徴を「ジョブ型雇用」として、日本の雇用システムの特徴を「メンバーシップ型雇用」として、それぞれを類型化して議論する論者が多いことを指摘しています。ジョブ型雇用は業務を限定した雇用で、他方、メンバーシップ型雇用は、我が国従来の雇用慣習である業務を限定しない雇用という考え方です。また、雇用システムに起因する課題解決策として、日本の雇用システムの特徴をメンバーシッ プ型雇用と捉えた上で、それを欧米のジョブ型雇用に転換することで、日本の雇用システムに起因する課題、例えば長時間労働、女性の活躍の阻害、同一労働同一賃金が実現できないことなどが解消できるとの主張があります。

 

 アメリカ、オランダ、ドイツ、フラン スの企業における大卒以上のホワイトカラーの雇用システムの実態を調査した研究では、雇用システムは、全体として限定雇用に近い特徴が確認できました。また、固定的な職務内容を柔軟化して企業の事業環境変化への適応力を高め、また賃金制度に関し、職務等級制度のブロードバンド化によって 職務給の「職能給的な運用」が行われている実態が確認できたそうです。日本の雇用システム改革の鍵は、従業員が担当する職務内容(ジョブ)について、職務記述書などにより一般的・概括的・抽象的に規定された限定正社員を導入することに加えて、企業の包括的な人事権を基盤とした採用や異動(企業主導型キャリア 管理)から、企業と従業員の間の調整・合意 に基づいた採用・異動(企業・社員調整型キ ャリア管理)へと変革できるかどうかが課題 となりそうだそうです。非常に、興味深い内容の寄稿でした。