同一労働同一賃金について

 2015年9月、「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」、いわゆる「同一労働同一賃金推進法」が施行されました。「同じ価値の仕事には同一の賃金水準を適用すべき」という同一労働同一賃金の原則に基づき、正社員と派遣社員など非正規の社員との賃金や待遇の格差を是正するための法律のことです。「この考え方は日本にはなじまない」という意見がありますが、その背景には、日本独自の雇用のルールや概念があります。

 

  「同一労働同一賃金」に先進的に取り組んできたEU諸国では、多くの専門職の仕事が「ワークシェアリング」の対象とされ、もともと職務内容で賃金が決まる「職務給制度」が確立されていました。このため、法律として「同一労働同一賃金」を導入することが可能な環境にあり、パートタイムであっても時給換算では同じ賃金をもらっています。一方、日本の企業は、新卒採用から定年までの長期スパンでキャリアの形成を見据え、スキルだけでなく、人事ローテションの対象とされ、経験や勤続年数に報酬を支払う「職能給制度」を設けています。

 

 

 アメリカの場合は、「ワークシェアリング」という考え方は少ないようですが、キャリアに応じた職務記述書が労働契約の根幹をなすために、同一労働同一賃金の原則は厳格に守られているようです。「賃金の違う人は、相手の業務を奪ってはならない」ということが徹底され、違反すると巨大な訴訟リスクを抱えることになります。欧州や米国のような歴史的な必要性に裏付けされた雇用環境にない日本で法律によって企業に「同一労働同一賃金」を義務付けたとしても、実現させるのは非常に困難だと思います。

 

 とはいえ、企業間の競争が激しさを増す中で、企業が適時最適な人材を確保し、継続的に成長していくには、多様な働き方を「同一労働同一賃金」で公正に処遇し、流動的な労働市場を形成していくことも必要な時代です。また、企業内の人事ローテーションで長期的なキャリア形成により総合的な能力を蓄積させて生産性を向上させる考え方もあると思います。いずれにしても、事業の方向性や目的に即した人事制度や雇用対策を推進する上でも、同じ価値の労働に同じ賃金で公正に処遇することについて考える良い機会だと私は思います。