職務分析と仕事基準

世界から見ても特異な日本の人事制度が、働き方改革の指標である同一労働同一賃金により大きく変わろうとしています。世界で唯一の能力主義賃金、結果として年功賃金という人を中心とした人事制度を運用してきましたが、これからは「職務(組織機能)=仕事」を中心にマネジメントする必要に迫られています。日本の少子高齢による働き手の不足は大きな問題ですし、長期にわたる先進国中最下位の労働生産性の向上に向けた策を講じることは、企業にとっても大きな課題になります。正社員と非正規社員の格差是正どころの話しではなく、職務を中心とした社員の雇用や処遇について厳しい対応を迫られていることは確かで、事実、職能給から職務給への変更に向けたコンサルタント依頼が増えています。
職能資格制度を基軸とした人事制度では、組織に属するメンバーが自分の役割を果たしながら、組織やチームに貢献することを前提として運用されますので職務そのものを評価されることは滅多にありません。本来は職能資格制度であっても、職務遂行能力を評価する仕組みは必要です。また、日本企業では採用後に、1年くらい様々な部署や仕事を経験をしてから適性を判断してから本人の仕事を決める、ジョブローテーションを前提とした配置を行っています。海外では、採用時に職務記述書を提示して職責と結果責任を明確にして、求める能力・資格を示して採用基準を提示しています。労働契約は個別に条件が決められ、就業規則で転勤・配置転換を自由にできるメンバーシップ型とは大きく異なります。

日本の将来的な課題に向けた施策が働き方改革の目指す方向ですが、メンバーシップ型からジョブ型への転換が戦後日本の働き方を変える大きなテーマと考えています。職能資格制度においても、本来は職務調査を実施して課業を洗い出して正確な能力を把握した上でなければ制度設計は不可能なはずですが、中小企業において実施している企業は少ないようです。課業を洗い出さなくとも役割などで等級区分ができると考えてのことかと思いますが、ジョブ型の制度設計においては
職務分析は必須です。職務を洗い出さなければ対応できない時代がもうそこまで来ています。
職務分析に関する書籍は少なく方法を見つけることは難しいのですが、職務の目的を明確にすることで起点と終点のイメージをつき、職務の中核課業を見つけることができます。職務のプロセス展開や課業の洗い出しには多くの時間を要しますが、気づきの多くはこの作業によるものです。職務分析には、実務運用上(オペレーション)の職務分析と人事管理上の職務評価のための職務分析がありますが、私の仕事では後者が重視されます。人事制度の構築には欠かせない分析ですが、生産性向上のためには前者の分析と現場の理解が必要です。仕事基準の働き方に変えていくためには、両方の目的をもって進めていくことが重要だと実務の中で強く感じる今日この頃です。