災害時、時間外労働の新基準について

過去に起きた災害は、将来、再び起きる可能性が高いといわれます。東日本大震災は「歴史に学べ」という大きな教訓を残し、南海トラフ巨大地震や首都直下地震など未曽有の災害の可能性がある危機に、我が国は直面しています。
労働基準法では、災害やその他避けることができない事由によって、臨時の必要性がある場合には、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において法定労働時間外、または法定休日に労働させることができるとしています。(労働基準法第33条1項)また、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合は、事後の届出を認めています。(第33条2項)
「災害その他避けることができない事由」についての許可基準は、昭和22年9月13日付け基発17号および昭和26年10月11日付け基発696号によって示されてきましたが、6月7日に現代的な事象などを踏まえ70年ぶりに基準の一部改正と新許可基準が通達により示されました。
新許可基準の通達(令和元年6月7日基発0607第1号)では、避けることができない事由であるから、臨時の必要の限度のおいて厳格に運用すべきであり、その許可または事後の承認については概ね次の基準を示しています。
①単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要は認めないこと。
②地震、津波、風災害、雪害、爆発、火災等の災害への対応(差し迫っ
た恐れがある場合の事前の対応を含む)、急病への対応その他人命又
は公益を保護するための必要は認めること、例えば、災害その他避け
ることができない事由により被害を受けた電気、ガス、水道等のライ
フラインや安全な道路交通の早期復旧のための対応、大規模なリコー
ル対応は含まれること。
③事業の運営を不可能ならしめるような突発的な機械・設備の故障の修
理、保安やシステム障害の復旧はも認めるが、通常予見される部分的
な修理、定期的な保安は認めないこと。例えば、サーバーへの攻撃に
よるシステムダウンは対応に含まれること。
④上記に②および③の基準については、他の事業場からの協力要請に応
じる場合においても、人命又は公益確保のために協力要請に応じる場
合や協力要請に応じないことで事業運営が不可能となる場合には認め
ること。
また、新基準の解釈に当たっての留意点と適切な対応を期して留意通達
(令和元年6月7日基監発0607第1号)が下記の内容で発出されました。
①新許可基準による許可の対象には、災害その他避けることができない
事由に直接対応する場合に加えて、当該事由を対応するにあたり、必
要不可欠に付随する業務を行う場合も含まれること。
具体的には、例えば、事業場の総務部門において、当該事由に対応す
る労働者の利用に供するための食事や寝具の準備をする場合や、当該
事由のために必要な事業場の体制の構築に対応する場合を含まれるこ
と。
②新基準②の「雪害」については、道路交通の確保等人命又は公益を保
護するために除雪作業を行う臨時の必要がある場合に該当すること。
具体的には、例えば、安全で円滑な道路交通の確保ができないことに
より通常の社会生活の停滞を招くおそれがあり、国や地方公共団体等
からの要請やあらかじめ定められた条件を満たした場合に除雪を行う
こととした契約等に基づき除雪活動を行う場合や、人命への危険があ
る場合に住宅等の除雪を行うほか、降雪により交通等の社会生活への
重大な影響が予測される状況において、予防的に対応する場合も含ま
れるものであること。
③新基準②の「ライフライン」には、電話回線やインターネット回線等
の通信手段が含まれること。
④新許可基準について定めた事項はあくまでも例示であり、限定列挙で
はなく、これら以外の事案についても「災害その他避けることができ
ない事由によって、臨時の必要がある場合」となることもあり得るこ
と。例えば、新基準④においては「他の事業場からの協力要請に応じ
る場合」について規定しているところであるが、これは国や地方公共
団体からの要請が含まれないことを意味するものではない。そのため
例えば、災害発生時において、国の依頼を受けて避難所避難者への物
資を緊急輸送する業務は対象となりものであること。
インターネット技術の発達、普及がもたらす新基準の内容ですが、将来の大規模災害等に備えて抑えておきたい内容です。また、社内での対応策の話し合いなどにも役立つ内容だと思います。