新型インフルエンザの法的リスクには、国または自治体からの事業自粛要請によって蒙る一定損失に対する補償の有無等の経営に関するリスク、パンデミック期に商品配送担当部門が集団感染したために相手に損害を与えてしまった場合の損害賠償等、取引契約に関するリスクがありますが、ここでは小職の専門分野である労務管理に関する法的問題についてお話します。

 

 

使用者は、従業員に対して生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう配慮する義務を負っています(労働契約法第5条)したがって、感染拡大期において安全配慮義務を尽くした体制(事業継続計画)を取ることが重要で、単に設備やマスクなどの防具などを付与したことでは足りず教育、管理 を徹底する必要があります。万が一の場合、損害賠償を負うこともありますのでご注意ください。

 

 

「従業員から家族が感染した連絡が入ったので7日間の自宅待機を命じた」場合、労基法第26条では「使用者の責めに帰すべき事由」により平均賃金の60%以上の休業手当の支払いが生じます。しかし実務的にはトラブル防止と感染予防対策上100%支払ったほうが安全という考え方もあり、半数近い企業はそのような対応を取っている結果となった企業調査もあります。濃厚接触者を理由に労務提供能力にあるものを出勤停止とすることについて議論はあると思いますが、強毒性インフルエンザの場合、他の従業員と生命を考えると使用者として安全配慮すべき問題であり労使間でコンセンサスを得る必要があります。

 

 

「感染拡大から終息までの2月は長すぎて売り上げの減少等、経営が厳しくなったので従業員賃金を一律下げたいが可能か?」との問。労働条件の不利益変更となりますので労働契約に定める要件を満たす必要があります。 労働契約法第8条では、労使双方による合意があれば変更できるとしています。第9条では従業員の合意を得ないで就業規則を変更、労働者の不利益になる労働条件を設定することを禁じています。事業継続計画で設計した基幹業務の維持、感染終息後の事業復旧を考えると賃金を下げずに、従業員のモチベーション維持を図られるほうが生産性向上に寄与すると思います。